S5まではお金のデータを扱いました。S6のテーマは、AIや業務委託を含む4〜5人規模のプロジェクトを、オントロジーの上で運営することです。データの置き方と守り方、チームの組み方、指示の出し方、成果の判定、評価までを扱います。
最初に、扱わないものも伝えました。就業規則、勤怠システム、社会保険の手続き、大人数の評価制度。大きな会社の労務管理は、この講座の対象外です。
働き方は、リレーからプロジェクトへ
これまでの組織は、業務をリレーのように手渡していました。担当が一人欠けると、全体が止まります。AIが定型の業務を引き受けるようになると、一人ひとりが責任を持つプロジェクトを、いくつも並行して回す形が主流になります。
だから、これから人を雇うなら「他人のプロジェクトに参加する人」ではなく「自分のプロジェクトを前に進められる人」を採ります。
正社員を雇う目安は、1人あたり粗利800万円
正社員を1人雇うなら、従業員1人あたり年間の粗利800万円が最低ラインです。年収400万円程度とのバランスです。ここに届かない段階で人を増やすと、人件費と管理の手間が収益を上回ります。
その手前の段階では、外注やアルバイトなど、固定の人件費を抱えない形で仕事を頼み、プロジェクトを回すほうが安全です。たとえば学生など、自分の関心のあるプロジェクトに外注先として関わりたい人と組む形もあります。一方、結婚や住宅ローン、カードの審査など、社会的な信用が問われる場面が増えると、安定した正社員の働き方を望む人も増えます。参加者からは、その分かれ目は27歳前後ではないか、という話が出ました。
データベースは、もう外に借りなくていい
以前は、会社の情報を外部のサービスに送り、そこで保存・処理・分析していました。それを「データベース」と呼んでいました。今は、オントロジーそのものが、保存から処理、意思決定までを担えます。
不動産事業に取り組む参加者は、ここで表情が変わりました。「数か月かけて作ってきたオントロジーが、そのままデータベースだったんですね」。
1件1ファイル。CSVにまとめない
置き方の原則は、1人・1顧客・1案件につき、マークダウンのファイルを1つです。複数の件を1つのCSVにまとめると、AIが探しにくくなり、ファイル単位で見せる相手を分けることもできません。
もう一つは「正本」です。同じ情報が何か所にもあると、どれが正しいのかAIが判断できず、もっともらしい間違いが生まれます。事業計画のような大事な情報は、正本を1か所に決めておきます。
物件と顧客は、分けて管理する
不動産なら、物件の取得費・管理費・修繕費を扱うアセット管理と、借り手の契約内容を扱う顧客管理は、別のデータベースにします。在庫、資産、生徒、顧客。まず「何を管理するのか」を決めるところから始めます。
機密度は4段階。権限は最小から
守り方の中心は、データを機密度で分けることです。
- 公開——誰に見られてもよい
- 社内——チームの中で共有する
- 限定——役員など、決まった人だけ
- 預けない——パスワードやAPIキーは、オントロジーに置かず専用のサービスへ
そして権限は、「自分以外は見られない」を初期値にします。全員が全部を見られる状態から絞るのではなく、業務に必要な範囲だけを開けていきます。外部の顧客や他社には、オントロジーを直接触らせません。必要な情報だけを抜き出して、別のダッシュボードに渡します。
AIツールに入れた情報がどう扱われるかは、契約によって違います。契約を更新するたびに確認します。バックアップには、Gitでドライブの変更履歴を残す方法を勧めました。
守るのは、情報よりも信頼
この日いちばん時間を使ったのは、ここでした。データの流出が怖いのは、データそのものより、その後に生まれる不信感だからです。
- 撮影して掲載するなら、事前に運用方針を文書で示し、同意を取る
- 外部パートナーやアルバイトが辞めるとき、取引が終わるとき、データを消すのか・いつまで持つのかを、先に書いて見せておく
- 人について記録する項目は、必要な最小限に絞る。主観や悪口は書かない
参加者からは、自分の写真を無断で使われて不快だった経験や、オンライン自習室で画像が不適切に扱われた事例が挙がりました。自分の情報がどう使われるかに敏感な人は多く、事前の説明と同意が信頼の土台になります。
ダッシュボードは、意思決定のためにある
後半は、食品事業に取り組む参加者が作っている、在庫とシフトのダッシュボードを見ながら相談しました。
助言は3つです。汎用のシステムではなく自分の商品に特化してゼロから作ること。パソコンではなく、現場で使うスマホやタブレットを前提にすること。そして、画面より先に必要な情報をデータベースとして定義することです。
オントロジーの本当の価値は、情報を見やすくすることではありません。たとえば予約がスタッフの手に余りそうなとき、そろったデータをもとにAIと対策を相談できることです。パランティアが大企業向けにやっている「データを貯めて、現場の意思決定に使う」仕組みは、小さな会社でも作れます。
業界ごとに必要な情報は違うので、ダッシュボードも業界ごとに作ります。最初の設定や入力を相手任せにせず、こちらが聞き取って作り込む。そこが仕事の価値になります。個人向けの小さなツールなら、無料にせず「情報管理費」として月3,000円程度をいただく形を勧めました。
AIが進むほど、現場の価値が上がる
最後は、人の役割の話になりました。AIで置き換わる仕事が増えるほど、人がやるべきことは、現場に行って人と会うこと、商品をおいしく作る腕を磨くことになります。
ヒューマノイドが畑で働く時代が来たとき、農地をオントロジーで管理できている人は有利です。だから、手のかからない小さな農地で、AIによる管理の実証を早めに1件作ろう、という話でまとまりました。空き家も同じです。大手がまだ入っておらず、「空き家は儲からない」という思い込みが残っている今が機会です。
この日の到達点
データの置き方(1件1ファイル・正本)と守り方(機密度4段階・権限は最小から・終わり方を先に決める)を決めました。次のステップは、参加者それぞれが、自分の現場の業務に直結するデータベースを1つ作ることです。
この勉強会について
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