S4「ビジネスを多面展開する」の3回目です。私が運営しているのは、経営者向けのAX(AIによる業務変革)実践スクールです。この日の参加者は3名。不動産、食品、教育——それぞれ自分の事業を持っている方たちです。

前回までで、事業案を出す道具と、出た案を仕分ける基準は揃いました。だからこの日は、私が話す時間をほとんど作りませんでした。各自が手を動かして、最後に発表する。それだけの回です。

第12回の様子。参加者がそれぞれ自分のPCで、自社の事業案を出させながら手を動かしている

アイデアは、ひねり出すものではない

「収益率の高い新事業を作る」と言うと、儲かる案を探す話に聞こえます。そうではありません。

現場に立っていると、思考はどんどん現場最適化されていきます。目の前の作業をどう速くするか、どう間違えないようにするか。それ自体は正しいのですが、その状態で「新しい事業を考えよう」と言われても、何も出てきません。私はこれを、本人の発想力の問題だとは思っていません。置かれている構造の問題です。

だから、発想を人力に依存させないようにします。現場での一つ一つのアクションから、常に新しい事業案がAI側から提案されてくる。そのサイクルごと手に入れてしまうのが、この回の目的です。

やり方はシンプルで、案を10個も20個も出させます。そこから有望なものを選び、再検討し、チェックリストをもう一度当てる。これを繰り返します。自分で書くのではなく、向こうに積極的に動いてもらうことに時間を使います。

抽出そのものを鍛える

ここで一つ、前回から引き継いだコツがあります。ロールマップから案を抽出させたとき、出てきた結果が特定の方向に偏っていることがあります。そのとき、黙って選び直すのではなく、「偏っている」と指摘する

抽出をもう一周やらせてもいいし、別のロールを指定し直してもいい。指摘を重ねていくと、抽出という作業自体にレギュレーションが付いていきます。一度きりで終わらせないことが、精度の差になります。


言葉を一つ渡すだけで、出力が変わる

この日いちばん象徴的だったのは、ある参加者の報告でした。自社で新しい取り組みを始めるにあたって、期間を区切って毎日の記録を取り、その経過を公開していく——という進め方をすでに始めていたのです。

私が言ったのは一言です。

PoCって言葉、知ってますか

Proof of Concept。日本語では概念実証と訳されます。実現可能性の確認、リスクの低減、スモールスタート。その参加者がやっていたことは、名前が付いていないだけでPoCそのものでした。

これは「知らなくて恥ずかしい」という話ではありません。重要なのは、AIに「PoCを設計して」と言えるかどうかです。PoCは世界中で標準化されたフレームワークで、進め方はネット上に大量に共有されています。だから一言で通る。逆に「実証実験をやりたい」とだけ伝えると、どれくらいの精度でやるべきかをAIが迷い、出力がぼやけます。

同じことが飲食業界のFLコスト(原価+人件費)にも起きました。この日、食品事業の参加者が収支計算を出してきたのですが、そこには私が事前に何も言わずともFLの計算が入っていました。指標の名前を専門家の使う形で渡すと、AIは「ここもしっかりやらなければいけない領域だ」と判断して、勝手に精度を上げてきます。

私は普段、こういう用語を人に対して使いません。難しい言葉を並べる指導には意味がないと思っているからです。ただし教材の中には、業界標準となるフレームワークをちゃんと埋め込んであります。企画をAIに生成させる時代には、言葉を持っていること自体が得になる——この日はそれを、あえて表に出した回でした。


スケールの仕方は、だいたい決まっている

参考として、Y Combinatorに採択された水産系スタートアップの事例を見ました。漁師出身の起業家が、FAXや電話などバラバラの経路で来る注文をAIに取り込み、文脈を解釈して注文を確定させる仕組みを作った、という話です。

読むと分かりますが、技術的にとんでもないことをやっているわけではありません。この日の参加者に「作れそうでしょう」と聞いたら、全員が頷きました。それでも大規模な事業として提案でき、投資も集まる。差が付いているのは技術ではなく、入り方です。

  1. 自分が現場にいたから、周囲にすでにネットワークがある(加工業者、納品先、同業者)
  2. そこに声をかけてPoCをやる
  3. 結果をレポートにして公開する
  4. そのレポートを持って各社へ一気に営業し、そこからスケールする

これはまさに、S4でやっていることそのものです。上がり方の型は、実はもう決まっています。


スケジュール管理に、推論はいらない

ワークの合間に、私の朝の運用を画面で見てもらいました。毎朝6時に自動で走らせているダッシュボードです。予定の確認、メールの整理、タスクの進捗、そしてニュース収集。ニュースは担当ジャンルを分けて、複数のエージェントにそれぞれ「記者」として集めさせています。

ここで参加者から出た質問が良かったので、そのまま共有します。「モデル設定にあるlow / medium / highというのは、何の表示ですか」。

答えは推論レベルです。消費するクレジットの多寡ではなく、どれだけ深く考えさせるかの設定です。そして、これは高ければいいというものではありません。

スケジュール管理に推論されたら困るじゃないですか。事実ベースだけでやってほしいんだから、推論レベルは低い方がむしろいい

予定表の整理を任せているのに「明日は宇宙に行く可能性も捨てきれません」と広げられても邪魔なだけです。逆に、既存事業からまったく新しい事業を発想させるときは、推論レベルを上げます。タスクの性質で使い分ける。これは費用の話ではなく、品質の話です。

タスク管理そのものも、手で登録していません。定例の議事録から「終わったタスク」「新しく生まれたタスク」を判定させて取り込み、自分にボールがあるものだけを押し出させています。契約の締結報告が来ていないから案件が止まっている、といったことも、そこで分かります。


「今のままでいい」は、正当な話

後半は提案の作り方に話が移りました。AIによる業務改善を提案しても、多くの現場からは「今のままでいい」と返ってきます。

私はこれを、まったく正当な反応だと考えています。今のやり方で回っているのだから、変える理由がありません。ここを説得しようとすると、たいてい失敗します。

必要なのは説得ではなく、社会的な問題提起です。今あなたたちが置かれている状態はおかしいのではないか、と提示する。給料が上がらない構造、中間で買い叩かれる構造、そういうものを「当たり前」から「変だ」に引き上げる。

現場に外から入ると、異常さはすぐ見えます。ところが10年20年その中にいる人には見えません。それが普通だと思っているからです。ここがポイントです。

農業に人が入ってこないのも、根本は稼げないからです。畑にかかりきりになる作業だって、監視カメラで見る、異常があればアラートを出す、一定時間ごとに撮影する——小さなDXでいくらでも変えられます。問題意識を共有したうえで、それがどうテクノロジーに変換できるかを示す。順番を逆にすると、どんなに良いシステムでも「面倒だからいい」で終わります。

なお「それも含めて修行なんだ」という反論もあります。私はその考え方には賛同しませんが、議論もしません。安い給料で修行したい人は、単にターゲットではないというだけの話です。

それでも、断られた後にLPは読まれる

その場で本音が出ることは、ほぼありません。人はメンツと建前で仕事をしています。ところが、断って家に帰ってスマホを見ているとき、こちらの商材はよく見られます。「そういえばあの人、何か言ってたな」と。

だから、後から見られる場所を用意しておく必要があります。こういう会社がこう変わった、という事例が並んでいれば、自分のところも変わるかもしれないと思ってもらえる。LPが重要なのは、その場で売るためではなく、その場の外で効かせるためです。


裁量権のない人に提案しても、何も変わらない

これに関連して、この日はっきり言い切ったことがあります。提案は裁量権のある相手に直接行う。役員、社長。そこ以外に話しても、良い反応が返ってきたところで何も動きません。

逆向きの注意も一つ。参加者の一人が、業務委託先のPCにAIツールを入れて作業を効率化した、という話をしました。結果は劇的で、数時間かかっていた作業が十数分になったそうです。ただしこれはやってはいけません

自分に裁量権のない組織で、勝手にツールを持ち込まない。データを外に出さない。多くの会社にはデータの取り扱いに関する規程があり、就業規則は誰でも閲覧できる場所に置く義務があります。まずそれを読む。何をしていいか、どこまでが許容範囲かは、たいてい文書化されています。


店頭は、最初から売れない

発表の時間に移ります。匿名でいくつか紹介します。

食品事業の参加者は、新商品の収支を組み立ててきました。1つあたりの販売単価、1日の製造数、仕込みと販売にかかる時間、材料費、人件費、場所代。そこからFLコストを出すところまで到達していました。数字を積んでみると、材料そのものは十分に抑えられているのに、人件費と場所代を足した瞬間に利益が痩せるという構造が見えました。これは机上で気づけたことに価値があります。

私からの指摘は2点です。ひとつは、販売チャネルを分けて仮定すること。店頭だけの前提だと、月間の販売計画が作れません。オンラインの受注生産を並行させれば、梱包や配送のコストも含めて計画の形になります。

もうひとつは、もっと身も蓋もない話です。

店頭は最初から売れないですよ。やるべきなんだけど、そこで収益性を立てようとしない方がいい

収益性はオンラインの受注ラインで確認する。店頭は、コンテンツを作る場所に振り切る。この整理をした瞬間、本人から「その方が気持ちも楽です」という反応が返ってきました。無理な期待を背負わせないことも、事業設計の一部です。

不動産事業の参加者は、自社での導入実験をそのまま公開していくLPを作ってきました。日ごとの記録を積み上げて中継する形で、しかも導入する側と導入される側の両方の視点から発信するという設計です。私からは、期間と稼働上限を先に固定すること、そして本来つけたい価格の方で設計することを伝えました。安い方で作り込むと、事業として成立する形が見えなくなります。

教育事業の参加者は、自分のノウハウを同業他社へ提供するB2Bの企画を持ってきました。すでに委託の形で実績があり、検証は済んでいる。そこにAI化を足すことで単価を上げられる、という組み立てです。課題も明確で、本人がいないと機能しないこと。これに対しては、個別対応の枠を減らしてメディア側へ寄せ、単価を上げるという方針が出ていました。

私からは、具体的な事例の中でAIがどの役割を担い、どこまで自動化できたのかを取り出してメディアに出すのが一番インパクトが出る、と伝えました。抽象的な「AI導入支援」より、一つの実例の方が強い。


現場を持っていることが、そのまま強さになる

この日、私が繰り返し言ったことがあります。これから起きるのは、会社が持っている固有データの殴り合いです。

だから、現場との接続は小規模でいいので絶対に持っておいた方がいい。年に数回の合宿でもいい、友人の店を手伝うのでもいい、アルバイトに入るのでもいい。私自身、移住先で飲食店のアルバイトに入っていた時期があります。よく考えると変な話ですが、現場のデータが欲しかったからです。

逆に言えば、PCの中だけで完結するビジネスは、このフレームワークの対象外です。関わるステークホルダーが多いほど、旨味が出る作りになっています。

新しいビジネスを考えようと言われて何も出てこないのは、才能の問題ではありません。軸足になる実業がないと、空中戦になる。参加者が全員、自分の現場を持っていることは、それ自体が資産です。


この日の到達点と、宿題

次回までの宿題です。

  • 収益ステージ設計を読み込ませ、ロールごとを主語にして案を量産する
  • 出た案を粗利率ランキングで並べ、選抜する
  • 選んだ案を企画書にし、LPを公開するところまで持っていく

この日は講義をしなかったので、目に見える進み方は地味です。ある参加者は「今日はタスク管理の仕組みを作っただけです」と言っていました。それでいいと思っています。回し続けるための土台を作った日は、後から効いてきます。

次回(8月31日)は、それぞれがLPを公開した状態で集まります。

この勉強会について

経営者向けのAX実践スクールとして、SOVREN Frameworkを使った実践を毎週行っています。教材はSOVREN Frameworkで全文を無料公開しています。