S4「ビジネスを多面展開する」の2回目です。私が運営しているのは、経営者向けのAX(AIによる業務変革)実践スクールです。この日の参加者は2名。不動産と食品、それぞれ自分の会社を持つ方たちです。

前回、事業案を出すための道具——ビジネスの3分類、2C・2B・2M、事業評価の5軸、そしてロールマップ——を一通り揃えました。今回はその続きから始まりました。出てきた案を仕分けて、公開までのサイクルに載せるところまでが、この日の範囲です。

第11回の様子。画面にSOVREN Frameworkの検討項目を映しながら、参加者それぞれの事業案を仕分けていく

AIに自分を主語にして聞くと、同じ答えしか返らない

冒頭、参加者から率直な報告が出ました。ロールマップを作ってコラボレーション案を出させたのに、言い回しを変えただけの同じような案ばかり返ってくる、と。自己診断は「自分のやりたいことが入り込みすぎている」「案が偏っていて、もっと広く見てほしい」。

原因はすぐに特定されました。聞き方です。

「自分を中心にどんな協業ができるか」と聞いている。そうではなく、ロールマップにいる会社・個人の一人ひとりを主語にして、その相手ごとの提案を書かせる

自分が主語だと、AIは「自分がやりたいこと」を軸に案を並べます。だから中身が入れ替わらない。主語を相手側へ移すと、Aさんには何を、Bさんには何を、と相手の数だけ違う提案が立ち上がってきます。同じ道具でも、向きを変えるだけで出力が変わった瞬間でした。

あわせて釘を刺されたのが、教科書の使い方です。全文を読み込ませても意味がない。そこで何を言っているのかを読み解いて、自分のビジネスに合う形に翻訳する作業は、結局こちら側の仕事として残ります。


固有の情報がなければ、一般論しか出てこない

もう一つの前提が、入力側の話です。「酒屋と自社商品のコラボ案を出して」と聞けば、誰が聞いても同じ一般論が返ってきます。

ところが、その酒屋について自然派ワインの輸入に力を入れているという一行が入っていれば、話が変わります。そのワインに合わせた限定のペアリングコース、会場を1日借り切った特別イベント——具体的な組み合わせが、こちらが考える前に出てくる。カスタマイズどころか、候補のピックアップまで向こうがやってくれます。

だから、名刺交換した相手も、旧知の人も、学生の友人まで含めて人物データに入れていきます。名前だけでなく、その人が何に関心を持ち、どんなつながりを持っているかまで書く。人間の記憶容量には限界があり、全員分の組み合わせを頭の中で検討し続けることはできません。

この日、置き場所の使い分けもはっきりしました。

置き場所入れるもの
ロールマップ関わっている人を大量にリスト化する場所
人物データ自分に関わる人を1人1ファイルで持つ場所

相手が会社ならWebから情報を取れますが、学生のようにWeb上の情報がほとんどない相手は、自分で吹き込むしかありません。「ここは面倒だが、ここは信頼できる」といった主観込みで入れてしまうのが、結局いちばん早い。

AIを突き詰めると、人的資源の話になる

使い込むほど、扱う対象が「情報」から「人」へ移っていきます。自分と、自分がコントロールできる資源。そう考えると、一人会社はAIと相性が良い形だと言えます。社長の動き方も変わる。外に出て人とネットワークを作り、そこへの連絡はAIから入れさせる、という形へ。


2Cと2Bで、柔軟性の向きが逆になる

ここで、以前の回と矛盾して聞こえる話が出ました。

消費者向け(2C)では、来るお客さんごとに対応を変えているとスケールしない——これは以前に確認したとおりです。ところが事業者向け(2B)では逆で、来た会社に合わせて作らなければ成立しない。同じ業界でも、チェーンで固めている会社と、緩やかにやっている会社とでは、やるべきことがまったく違うからです。

柔軟性を持つべきなのは、提供するパッケージではなく、ビジネスを構築する側

提供物そのものは、いったんパッケージにしたら固定する。代わりに、自分の側に部品を大量に持っておいて、相手ごとに組み替える。ここでオントロジーが効きます。相手企業の情報を読ませれば、手持ちの部品から適した組み合わせを選び出させることができるからです。

逆のパターンも話に出ました。良い技術を持っているのに「うちは決まったことしかできません」と返ってくる会社。柔軟性を提供物の側だけで考えていると、こうなります。

それぞれが成立するための条件も、改めて確認されました。

成立の条件
2C①需要が変動しても供給し続けられる ②単位あたりの原価が確定し、月ごとに上下しない ③問い合わせ→提供→アフターの導線がある(これが無いと営業が成り立たない) ④現場を発信に使える許可が取れている
2B①提供物を明確に特定できている ②相手に支払える体力がある

2Bのこの2つは、AIに検討させられる。そこが強い、という補足がありました。


案を6項目で叩く——支払者が言えないものは、事業ではない

出てきた案のうち有望なものを1つ選び、教科書の6項目を当てていきます。相手の役割、相手から借りるもの、こちらが渡すもの、固有データ、支払者、成立条件。

実演では、不動産分野の案でこの6項目を埋めました。埋めてみると、案の輪郭が一気に立ちます。誰が何を持ち寄り、誰が代金を払い、その代金は何に対する対価なのか。この日、特に効いたのは次の2項目でした。

項目欠けているとどうなるか
固有データそのまま「どの会社でもできること」になる。差別化の根拠が無い
支払者「いいですね」と全員が言うが、誰も払わない。お金にならない

埋めた結果には、もう一つ発見がありました。自分が受け取る報酬が、「こちらが渡すもの」の欄に紛れ込んでいたのです。自分のテイクが取れているか——AIが埋めた表は、そこまで見て初めて使えるものになります。

実演中は、料金の設計まで踏み込みました。顧問料のような曖昧な一本値ではなく、導入時の初期費用/月額の利用料/個別対応の費用の3つに分ける。何に対して払っているのかが相手側に見える形にする、という整理です。

もう一つ、実務的な小技も共有されました。教科書の該当箇所はスクリーンショットで貼ればいい。全文を読ませるのではなく、いま検討したい枠だけを見せる。


5軸で採点して、主力・補助・保留に仕分ける

案が増えてきたら、次は比較です。前回の5軸——反復頻度、一次データ量、顧客への近さ、黒字化の可能性、他事業への転用性——を各5点、25点満点で採点します。

この採点を定期的に回す理由が説明されました。売上や原価率だけで事業を比べていると、なぜその事業が成立しているのかという源泉が見えなくなるからです。数字にして並べると、手をつけきれていない案も含めて、間引く判断ができます。

そして採点したら、必ずステータスを付ける。ここがこの日の中心でした。

ステータス扱い
主力候補集中して進める。1つか2つまで。人が集中できるのはその程度
補助金額は小さくても、信用形成になるので提案として出し続ける
保留やらないと決めたもの。理由を添えて残す

数週間前、参加者の一人は主力候補が頭の中に何個も並んでいて整理がつかない状態でした。この日はその逆の発見がありました。仕分けてみたら、主力候補と呼べるものが実は無かった。長く続けてきた事業が、構造上は補助の位置にあると分かったのです。

これは後退ではありません。「自分の時間を注ぐに値する主力事業を、これから設計する」という具体的な課題に変わったからです。

そして主力だけになってもいけない。補助を背中に背負った状態で、主力に注力する。「こういう選択肢もあります」と示せる状態で人に会いに行くのが、あるべき形だと説明されました。

この採点は一度きりではありません。四半期に1回は事業化判定として回します。補助がちゃんと機能しているか、補助のつもりだったのに問い合わせが増えていないか。売上が落ちてきたものをやめる判断も、ここで行います。

保留にも、理由を書き戻す

やらないと決めた案を、ただ消さない。「やめました」ではなく「なぜやめたか」を一行残すと、次に案を出すときにその条件が効きます。たとえば、月末なのに翌月開始という無理な立ち上げ案が、以降は出てこなくなる。


補助の事業は、Webに出しておく

補助に回した事業をどう扱うか。答えは明快でした。提案としてWebに出しておく。

顧客がまだいなくても、提案の形にして公開するところまで持っていく。1年間ずっと反応が無かったものに、翌年から問い合わせが来ることは実際にあります。そのとき、主力事業への動線になる。何より、その人が何をやっているかが外から見えるようになります。

頭の中で検討したものを、頭の中に留めておかない。考えただけで終わっている事業案が、あまりにも多い

この日は実例が示されました。私自身が「事務所の空き部屋に2人ほど人を置きたい」と思いつき、その日のうちに募集ページを作って公開した件です。3ヶ月間、AIと共に業務を組み立ててもらい、本人ではなく蓄積したオントロジーだけを次の担当者へ引き継ぐという実証実験の募集でした。普通なら「そんな募集は出さない」と考えて終わる思いつきです。公開コストはほぼゼロなのだから、出してしまえばいい。


狙えるのは中小・現場層。その入り口は、そう長く開いていない

この日、事業機会の話で一つ、時間の区切りが示されました。

大企業向けのAI導入は、補助金事業として大手が押さえに来ています。一方で、小さな会社や現場の層にはまだ空白がある。参加者からは、業界イベントで見聞きした実感として、大手が主導する仕組みは規模の大きい会社向けで、小さな会社には手が届いていないという報告がありました。

ここで指摘されたのは、AIの使い方そのものに関わる点です。

大企業向けに動いている人は、その層に目もくれない。そして、使っている本人が見ていない領域は、AIも提案してこない

だからAIの使い方で重要なのは、自分に見えていないところをどう拡張するかを、サイクルの中に組み込んでしまうことだ、と。

そのうえで、入り口が開いているのは長くないという見立てが示されました。導入補助金などで制度化が進むと、枠が固まって後から入れなくなる。この1年が勝負で、すでに半年が過ぎている。来年3月をリミットと考え、それまでに実績を作って入れるかどうか——という時間感覚です。

関連して、大企業側の事情も共有されました。この半年、各社は「社内でAIをどう使うか」のレギュレーション作りを進めており、一般社員には顧客情報を触らせない構成が基本になっています。だから現場では整理が進まない。ただし上層はルールを設計したうえで顧客情報を読み込ませていて、意思決定には使われている。そこは分けて見る必要があります。


コンパウンド戦略の正体

後半のテーマが、この日の本題でした。

「こんなこともやろうと思った」「あれも考えた」——出ては消え、出ては消えていく事業案。1年経って何も生まれていない、という状態は珍しくありません。S4がそれを防ぐのは、一度作って終わりではなく、サイクルとして回る形になっているからです。

コンパウンドとは、同じ仕組みから新しい事業が複利で出続けること。情報が溜まるほど、出てくる案の精度が上がる

新しい人が来た、人を雇った、依頼の質が変わった——局面が変わるたびに、同じ仕組みから次の事業が出力される。一つの商材でうまくいった仕組みは、そのまま次の商材にも使えます。前提として、自分が忙しくならないようにする。だから自動化が要る。

回すのは「新事業」ではなく「収益仮説の検証」

ここで大事な区別が置かれました。月に1つ新事業を立ち上げろ、という話ではありません。それではセンター事業のほうが不安定になります。回すのは収益仮説の検証です。

  • 価格帯を変えてみる(富裕層向け/逆に低価格で負荷の小さいもの)
  • 提供の形を変える(これまで蓄積したノウハウを情報として売る)
  • 別の顧客層に出してみる
  • 動線を変える、新しい切り口でLPを作る

月に1〜2枚、この種のページが増えていく。それが正常な状態だ、という基準が示されました。


1日で出す。30日で判定する。その間は直さない

そのサイクルの型が、次の形です。

オントロジーを読ませる 検証する収益仮説を1本決める LPを作って公開 ファーストキャッシュを確認 30日で判定 企画から1日以内 続ける/やめる 結果と、やめた場合はその理由をオントロジーへ書き戻す この一周を、月に1回以上。太枠の2つが、いちばん飛ばされやすい

目標は企画からLP公開まで1日以内。これはマストとして置かれました。考えたフレッシュなうちに出す。完璧なサービスである必要はなく、最初の形のまま市場の反応を取りに行くほうが先です。

ページに載せるコンバージョンも、単純な形に統一します。メールアドレスの入力欄1行と、ボタン1つ。「興味がある方はこちらへ」だけ。そして登録されたアドレスは、そのまま自分のオントロジー側にリスト化されるように作らせておく。SNSのアカウントを新たに開設する必要はありません。

公開したら、30日間は直さない

ここが、多くの人と逆になる部分でした。公開後、細部が気になって手を入れたくなる。ボタンの位置、写真の並び。しかし——

途中で作り直すと、直す前と後の比較ができなくなる。1回作ったら、効果判定まではそのまま走らせる

改訂のタイミングは、感覚ではなく事前に固定します。実際、この勉強会で使っている教材も、改訂は「授業の前」と「授業の後」の2回だけと決められています。授業前は参加者に合わせた調整、授業後は補足が必要だった箇所の反映。それ以外の時期には基本的に触りません。

そして30日後、KPIで機械的に判定します。どれだけアクセスがあったか、問い合わせが来たか、最初の売上が立ったか。「まだ自分にやれることが残っているのでは」という感覚で、だらだら続けない。判定日は、公開日を起点にタスク管理へ組み込んでおきます。

なお、撤退を決めてもページを消す必要はありません。事業として出したまま、力を注ぐ先を別へ移せばいいだけです。

許認可が要るものは、この限りではない

「まず出す」は、出してよいものに限った話です。保健所の許可が下りていない飲食の提供のように、許認可の前に公開してはいけないものがあります。思いついても出さない。ここは明確に線が引かれました。


やめ方を、安定しているうちに体験しておく

サイクルの話は、事業の終わらせ方にまで及びました。

年商が大きくなるほど、「どうやめるか」が重要になります。だから安定しているうちに一度やっておく。3店舗以上を展開しているなら、1店舗を意図的に閉じてみる。閉じるのにどれだけのコストと労力がかかるのかを、余裕のあるうちに体感しておくためです。

回すサイクルの周期は、業種によって変わります。

業種目安
不動産のようにルールが明確な領域短く、どんどん回してよい
物販・製造仕入れルートや許認可があるため、四半期に1本程度
取得に時間がかかる資産を扱うもの年1回

いずれにせよ、最長でも1年で必ず区切る。そして「どの周期で棚卸しするか」を、最初にスケジュールへ入れておく。新しい事業を作ったせいで忙しくなった、では本末転倒だからです。

並行するものが増えるからこそ、という補足もありました。自分のタスクは、自分で責任を持って設定する。「あれもこれも」と頼まれて断れないまま抱え込むと、この回し方は成立しません。


S4で届くのは、年商3,000万まで

この日、フレームワーク全体の中でのS4の位置づけがはっきり示されました。

年商必要になるもの
〜3,000万S4までの内容で届く範囲。まずはここを何度も繰り返す
3,000万〜3億売れる単位を自分以外の手で回る形にして、並列数を増やす段階
3億〜S4の範囲外。ガバナンスの領域へ
10億〜ガバナンス設計・組織設計が中心になる

言い換えれば、S4は「一人で回せる範囲を最大化する」ための技術です。そこから先は、同じことを人の手に渡して並べる話になります。


AIが課金へ誘導してきたら、指示し直す

終盤、実務的なトラブルの共有がありました。参加者の一人が、AIに言われるまま外部APIのキーを取得してしまい、気づけば請求書がメールに届いていた、という件です。

結論は2つでした。

  • APIキーをチャットに貼らない。貼ってしまったものは破棄して発行し直す
  • その構成、そもそも要らない。有料APIの話が出てきたときは、たいてい課金のほうへ誘導されている。サブスクの範囲内で成立する構成に作り直させる

AIは、実装の相談をすると外部APIを叩く構成を提案してきがちです。それが必要な場面もありますが、個人や一人会社の用途では、契約済みのサブスクの中で足りることのほうが多い。提案されたものをそのまま実装しない——ここも「見えていないところを拡張する」話と地続きでした。


AIに渡してはいけない領域がある

この日、事業の話から少し外れた場面で、印象に残る指摘がありました。

人間関係そのものに、AIを先に出してはいけない

家族やパートナーとの問題は、当事者が直面すべきテーマです。整理された文書を先に出せば、相手を傷つけます。AIを使い込むほど、むしろ人間が引き受けるべき領域が明確になっていく、という話でした。

これは、このフレームワークが誰を対象にしているかとも繋がります。パソコンの中だけで完結して小銭を稼ぐ形は、最初から対象外です。より多くのステークホルダーを抱え込むほど旨味が出る設計になっているからです。だから、AIまわりの処理は仕組みに任せ、人間はどんどん現場に出て、人と会い、新しい事業を作る側に回る。


この日の到達点と、宿題

次回までの宿題です。

  • ロールマップの各社・各個人を主語にして、個別の提案を生成する
  • 有望な案に6項目を当て、固有データと支払者を言えるようにする
  • 5軸で採点し、主力候補/補助/保留のステータスを付ける
  • 次回は企画からLP公開までを2時間で通すので、着手できる状態にしてくる

S4は、後から効いてくる回です。人を雇う段になっても、採用ページだけを先に作ることはできません。事業の本体がAIに読める形になっていないと、その周りは何も作れないからです。この日の終盤に出た「S1が本当に重要だった」という参加者の言葉と、同じ構造の話でした。順番を飛ばすと、机上の空論が積み上がっていくだけになります。

次回(8月24日)は、S4のワーク実践です。収益仮説を決めるところから、LPを作って公開するところまでを、その場で一周させます。

この勉強会について

経営者向けのAX実践スクールとして、SOVREN Frameworkを使った実践を毎週行っています。教材はSOVREN Frameworkで全文を無料公開しています。