この日からS4「ビジネスを多面展開する」に入りました。S4を終えるとビジネスモデルが完成し、第1部が終わります。
最初に置かれた前提が、少し意外なものでした。AIを使えるようになると、やれることが無限に増えてしまう。作業もタスクも際限なく広がり、結果として何も深まらない。だからS4は「もっとやる」ための回ではなく、どれをやらないかを決めるための回だ、と。
まず、自分が最も注力する「センター事業」を1つ決める。決めないと、AIに任せる部分と自分が責任を持つ部分の線が引けない
私が運営しているのは、横浜の経営者向けAX(AIによる業務変革)実践スクールです。この日の参加者は2名。不動産と教育、それぞれ自分の会社を持つ方たちです。今回はオンラインでの開催でした。
売上の公式が、業態に縛られている
センター事業を決める前に、外すものがありました。認知フレームです。
自分の専門性を「飲食業」「不動産業」といった業態に固定して考えると、売上の公式まで業界の型に固定されます。飲食なら客単価×座席数×回転数。不動産なら仲介手数料×成約件数。この式の中で努力している限り、伸ばせる変数は限られており、上限も業界の平均に張り付きます。
ここで手放すのは専門性ではありません。専門性は残したまま、それを載せる構造のほうを組み替える。20年やってきた業務知識は資産のままで、売上の立て方だけを変える、という順序です。
ビジネスを3つに分ける
組み替えるための道具として、この日の中心になったのが次の3分類でした。
| モデル | 中身 | 性質 |
|---|---|---|
| 在庫型 | 店舗、個別の役務提供。目の前の相手に都度対応する | 売上に上限がある。粗利にも限界がある |
| 役務型 | 同業者への支援。自分がやってきたことを、同じ業種の人ができるようにする | 全国展開しやすい |
| ライセンス型 | データ、指導法、型そのものの提供 | 高収益化に向く |
そして参加者は、自分の会社をこの3つの比率に分解しました。ここが効きました。感覚では「もう仕組み側に移っている」つもりでも、分解すると在庫型が大半を占めていることが見えるからです。
もう一人の参加者は逆に、事業のほとんどが役務型でした。ただし内訳を見ると、役務型のはずの事業の中で、在庫型に近い細かな個別対応が発生している。形式上は仕組みを売っているのに、実務は都度対応で埋まっている状態です。収益を伸ばす前に、この混在を整理する必要がある——という結論になりました。
この分解を、事業単位でやる
会社単位で「うちは役務型」と括ると、この混在が見えません。事業A・事業B・事業Cとユニットに割ってから採点します。
誰に売るか——2C・2B・2M
モデルの次は、売る相手です。ここも3つに分かれました。2C(消費者向け)、2B(事業者向け)、2M(市場・業界全体向け)。
3つは優劣ではなく並列の選択肢である、と前置きされたうえで、はっきりした指針が出ました。
2Cは、実はビジネスモデルとして最も難易度が高い。新規に作るなら2Bから始める
2Cが難しい理由は2つあります。需要が変動すること。そして供給体制を先に作らなければならないこと。小さな事業者ほど、ここで在庫型の罠に落ちます。お客さんからの個別の要望に丁寧に応えすぎて、標準化ができないまま拡大できなくなる。問い合わせから提供までを一貫したフローにできて初めて、2Cは回り始めます。
2Bを成立させる4条件
では2Bなら簡単かというと、そうではありません。「相談に乗る」を有料サービスに変えるには、条件が要ります。この日示されたチェックリストが以下です。
| # | 条件 |
|---|---|
| 1 | 提供物が明確である(何を渡すのかが言える) |
| 2 | 相手側の経済合理性に合致する(払う側が得をする計算が立つ) |
| 3 | 根拠のある再現性がある(たまたま上手くいった話ではない) |
| 4 | 決裁権限と予算が明確である(誰がいくらで決められるか分かっている) |
この4つを、実行してからではなく計画の段階で当てる。1つでも欠けていれば、そのビジネスはまだ企画になっていない、という使い方です。
2Mは、収益の形を最初に設計する
3つ目の2M——業界全体を相手にするモデルには、固有の落とし穴があると指摘されました。裏付けのないまま業界のルールを決めにいくと、ビジネスが空洞化する。活動としては立派に見えるのに、収益がどこにも発生しない状態です。
回避策は、標準化やライセンスといった収益の形を最初から設計に含めること。そして展開するなら、次のガバナンスを先に用意すること。第三者による審査体制、認定の更新基準、教材の改定プロセス、利益相反の管理。これらが無い状態での2M参入は避けるべきだ、と釘が刺されました。
年商3,000万を、式で書く
後半は、収益の設計に移りました。成長は2つのサイクルで捉えます。
| ステージ | 目標 | やること |
|---|---|---|
| 第1 | 年商3,000万円 | 事業を成立させる。プロダクトが市場に合っているかを確かめる |
| 第2 | 3,000万〜3億円 | パッケージ化して複製する |
| 第3以降 | — | 組織化とガバナンス |
今いるのは第1ステージであり、まずここに集中する。そのうえで、目標は言葉ではなく掛け算の式にします。単価 × 件数 × 頻度。3,000万という数字を、この形まで割り戻して初めて設計になります。
ここで、実務的にいちばん効く指摘が出ました。
事業を拡大するときの計算には、たいてい「管理ロス」が入っていない。これが急拡大時の組織の不和や崩壊の原因になる
人が増えれば、その人を管理する時間が発生します。拠点が増えれば、拠点間の調整が発生します。売上が2倍になるとき、管理の手間は2倍では済まない。この項を式に入れずに立てた拡大計画は、必ずどこかで破綻するということです。
もう一点、数字の扱いで注意が入りました。資本収入と事業売上を混ぜないこと。不動産の賃貸収入のような資本側の収入を売上に合算すると、事業そのものが伸びているのかどうかが見えなくなります。
粗利率から価格を決める
価格設定についても、順序が示されました。飲食を例に、素材へのこだわりから売価を決めると破綻しやすい。良いものを使ったから高くする、という決め方には、粗利率の根拠がないからです。先に粗利率の設計をして、それに見合う価格を置く。ここが事業を続けられるかどうかの分水嶺になります。
センター事業は、儲かる事業とは限らない
ここで冒頭のセンター事業に戻ります。どれを中核に選ぶかの評価軸として、5つが提示されました。
- 反復頻度(どれだけ繰り返し起きるか)
- 一次データ量(そこからどれだけ生の情報が取れるか)
- 顧客への近さ
- 黒字化の可能性
- 他事業への転用可能性
注目すべきは、収益性が5つのうちの1つでしかないことです。この日、教育の参加者のケースで具体的に判定が行われました。結論は、収益性が低く見える現行の個別指導こそがセンター事業である、というものでした。
理由は、そこが知識を生産する場だからです。生徒と直に向き合う場でしか取れない一次情報があり、そこで信頼が生まれる。オンラインへ展開していく過程でも、この対面の場を手放してはいけない——という判断になりました。
裏返すと、単価の低さだけを見て事業を切ると危ない、ということでもあります。
因果関係のデータが取れる場や、顧客との接点になっている事業を切ると、会社全体が傾く
だから事業A・B・Cを並べて見る。単体の利益率だけで判断しない。「知識を生む場」と「利益を生む商品」は別々に持ってよく、むしろ分けて設計するもの、という整理です。
ロールマップ——人脈を、資産の形にする
最後のパートが、この日いちばん手が動いた部分でした。センター事業に関わるすべての関係者を洗い出すロールマップを作ります。
自分でリストを書くと、たいてい30人ぶんくらいで止まります。そこにAIを第三者として立たせ、見落としているプレイヤーを挙げさせる。出てくるのは、家族、AIベンダー、行政機関、業界団体——自分の認知の外にいた人たちです。
実演では、教育事業を対象に「他社の教材や研修を診断するフレームワーク検証サービス」「業種横断のベンチマーク提案」といった案が、ロールの並びから自動で立ち上がってきました。
そしてこのマップは、一度作って終わりの資料ではありません。
人が増えるほど価値が増していく資産になる
AIが自分から聞けないことを、人間が入れる
ただし、精度を出すには条件があります。状況的な文脈を人間が入力しないと、AIはそこを検討できない。この日の説明がとても分かりやすいものでした。
仮に、ある学習塾がトヨタの本社の隣にあったとします。だとすれば、その塾とトヨタ本社の間には強い接点が生まれ得ます。社員の子どもが通っている、という形で。しかしAIは、「もしかしてあなたの会社はトヨタ本社の隣にありますか」とは聞いてくれません。
だから地理的な近接性も、具体的な人間関係の背景も、人間が先に書き込む。そのうえで people/ の人物データと連携させて初めて、ロールマップは機能し始めます。
プロンプトから、ループへ
この日を貫いていた考え方が、最後にまとめられました。ループエンジニアリングです。
かつてのプロンプトエンジニアリングは、うまい指示文を書く技術でした。そうではなく、蓄積したデータとAIを循環させる。文脈が溜まっていれば、最小限の指示でもクリティカルな洞察が返ってきます。
ここで、蓄積すべき素材について印象的な指摘がありました。
何ヶ月もAI運用をやってきた記録——とくに、どういう失敗をしてきたかの記録は、宝の山になる
失敗のログは、普通は捨てられます。しかしそれを並べると、そこから他社の教材を診断するフレームワークや、業種横断のベンチマークサービスといった新しい事業案が出てくる。自分では価値だと気づいていない蓄積が、いちばん他社と重ならない素材になる、という話です。
名刺交換を、そのままループに入れる
実践としてすぐ回せる形も示されました。新しく出会って面白いと思った相手と名刺交換をしたら、その都度このプロセスを1周させる。
- 相手の情報を
people/に登録する(名刺から自動で入れる仕組みを組んでもよい) - 同業ならシナジーを、異業種なら自分の強みと掛け合わせたマネタイズポイントを、AIに検討させる
- 挨拶メールの中に、その協業の可能性を具体的に入れる
参加者から出たコメントが本質を突いていました。世の中に届くメールはたいていセールスばかりで、提案や協業のポイントを持ってくる連絡は、それだけで他と違って見える、と。
そして、ここに明確な運用ルールが置かれました。
自動送信はしない
「メールを自動化する」とは、勝手に送らせることではありません。AIにメールを用意させ、人間が内容を確認してから送る状態にすることです。相手から提案されたビジネスへのコメントのような内容は、AIに任せきりにすると変なものしか出てきません。何を書くかを指定したうえで生成させ、必ず目を通す。この日、参加者からも「やっぱり1回確認した方がいい」という同意が出ました。
この日の到達点と、宿題
S4の1回目として、次回までの宿題が置かれました。
- 自社の各業務を在庫型・役務型・ライセンス型に分類し、割合を出す
- 各事業が成立の4条件をすべて満たしているかを検証する
- 事業評価の5軸で、事業ユニットごとに採点する
- 収益ステージを設計し、目標額と売上の内訳を式で書く
- ロールマップを作り、AIに見落としプレイヤーを追加させる
- アクションログやデイリーログから、自分の客観的な価値を言語化する
今回は、作る技術の話が一度も出てきませんでした。前回までで作れるようにはなったので、次は何を作るかを間違えないための回だった、と言えます。在庫型のまま量産できるようになっても、増えるのは作業だけです。
次回(8月17日)はS4の2回目に入ります。
この勉強会について
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