第7回レクチャーで、ホワイトボードにmyproject・ontology・actionlog・contentのフォルダ構造を書きながら発信設計を解説する様子
ホワイトボードには myproject の全体図。S3で新しく足すのは content/——そこから案件別LPとSNSへ枝が伸びる

「声を届ける権利は、最初から自分のものです」
教科書S3の冒頭にある一文から、この日の講義は始まりました。何百万再生の裏技を教える回ではありません。アルゴリズムに迎合せず、届けたい顧客に自分の言葉で届けるための、設計の話です。


手を動かす①:ロールモデルを20個調べるより、最小の商品を1つ決める

前半は各自の進捗共有から。食品事業に取り組む参加者は、大学の友人10人を集めて商品案のブレストを行い、同世代のロールモデルを20件ほど洗い出したと報告しました。ご当地プリン、地元の名産を全部詰め込んだ商品——アイデアは次々に出てきます。

これに対する講師のコメントは、はっきりしていました。「とりあえず最初に、商品を早く決めた方がいい」。

「AIができるのは管理を最適化するところなので、勝手に商品を開発してくれることは、どれだけ頭が良くなってもまずない。だから足場がないと、ふわふわした空中戦にならざるを得ないんです」

すでに売れるベースがある事業者と、これから作る事業者の決定的な違いはそこにある——という指摘です。ではどうするか。できるだけ小さくていい。売れるか売れないかは、正直どうでもいい。過剰な投資さえしていなければ、売れなくても損はしません。それよりも、「作ったものを市場に出す」というラインを一度通しておくことに意味がある。考えてから動くのではなく、いま自分ができるところを拾って、ファーストキャッシュが生まれるところまで走らせる。

もう一つ具体的な助言が出たのが、提供のハードルを下げるという視点です。いちごや生卵のような足の速い食材は、素人には「どれくらいの速さでダメになるか」が想像できません(スイカが2日で味を落とすことを知らなかった、という参加者の実感も共有されました)。売れるものを考えるのと同じくらい、自分が確実に扱いきれるかを考える——生鮮食品は、そこのハードルが高い。

販売チャネルは「お金がかからないところ」から

参加者が挙げた販売先は3つ——自社EC(売っていることを示す役割で全体の1〜2割)、駅ナカスイーツの区画、百貨店への卸。いずれも未経験で、実現できるかどうかも分からない状態です。

そこで出たのが、「うちの軒先でよかったら売っていい。机を貸すから」という、クラス内からの提案でした。以前はコーヒー店やキッチンカーが同じ場所で販売していた実績があり、近隣の学生に手伝ってもらうこともできます。駅ナカは費用がかかる。まずはお金がかからないところで、実際に売る経験を積む——テストの場所は、思っているより近くにあります。


手を動かす②:SNS → LINE → イベントの導線を、先に作り切る

教育事業(総合型選抜)の参加者からは、集客導線の進捗が共有されました。この1週間で取り組んだのは、SNSから特典を出し、LINEへ誘導するための一式です。

  • 特典用のLPは作成完了。いま中身(特典そのもの)を制作中
  • これまでの塾生の合格実績、志望理由書のテンプレート、合格事例、動画を特典化する
  • YouTubeは競合分析の結果、「母親目線で大学受験を語るチャンネル」が少ない穴場と判断。そこから発信し、オープンチャットへ流す
  • 高3層はニーズが顕在化していて拾えるが「短期」。危機感のない高2層には、母親経由でアプローチする——SNS・YouTubeで「そろそろ準備が必要」を伝え、イベントやキャンプへつなぐ

講師の評価は「すごいちゃんとしてる」。そして、ここでも同じ原則が繰り返されました。小さくていい、しょぼい話でも全然いい。

「プログラミングでも、最初に『パズドラみたいなゲームを作る』と設定しちゃうと絶対にできない。まずは丸がぽこぽこ動くところだけ作ろう、モンスターが出てくるところだけ作ろう——自分が一番実現しやすいところだけをやっていくのが、開発の一番基本的なところなんです」

事業開発も同じで、理想的なところを見る必要はまったくない。いまの自分ができることを細かくAIで実装していく——そう考えると、「動きがない」という状態は避けられます。


S3の本題:バズの裏技ではなく、届けたい相手に届ける設計

後半は教科書を開いて、S3「発信を自分でコントロールする」へ。ビジネスで最も重要なのは顧客へのアプローチですが、昔は「DM」「立地のいい店舗」「人通りのある場所」の勝負でした。それがいまは、AIの中・SNSの中でどう提示するかの勝負に、完全に移っています。

ここで講師が真っ先に釘を刺したのが、扱わないものの範囲です。「何百万再生を連発するSNSの裏技を大公開」「人生ボロボロの僕が教える大逆転法」——そういうものではありません。本当に届けたい顧客に、どう届けるかだけを考えます。

S3を終えると手に入るのは、自分の行動履歴から発信素材が自動で生まれ、「設計 → 公開 → 結果回収 → 改善」のサイクルが回り続ける状態です。冒頭の写真のホワイトボードにある通り、S1で作った ontology/actionlog/ の隣に content/ を足し、そこから案件別のLPとSNS投稿へ枝を伸ばしていきます。


Build in Public — 意思決定を、狭い会議室の外へ出す

この日の中心テーマが、Build in Public(ビルド・イン・パブリック)でした。会社の中で社長や部長だけが会議していた内容を、どんどん世間に投げかけ、いろんな人から意見をもらって会社の方向を作っていく。欧米のベンチャーでは、毎月の収支——いくらお金があって、どれくらい減っているか——まで発信するのがトレンドになっています。

例に挙がったのは政党「チームみらい」でした。自分たちの中で何がどうなっているかを、できる限りインターネットに公開しようとしている。会社が秘密にしていく領域は、どんどんなくなっている——これがこれからの基本になる、という話です。

参加者からの質問:プロセスエコノミーとは違うのですか?

答えは「プロセスエコノミーは、その一部」。Build in Publicが「公共の中で会社を育てていく」という考え方で、プロセスエコノミーは「会社のヒストリーを隠さずに出す」という方法論の一つ——という整理が示されました。


LPの再定義:広告ページから、会社のステートメントへ

ここから、この日いちばんの再定義が入ります。まず基本の確認から。LP(ランディングページ)とホームページの違いは何か。

ホームページには、お問い合わせ・会社概要といった遷移があります。LPにはその階層構造がない。上から下へスクロールするだけで完結し、その1ページだけで構成される——だからこそ、これまで広告に使われてきました。理由は数字です。

「ウェブページは1クリックさせるたびに、6割とかいなくなるんです。だからホームページの中でクリックさせるのは、基本的に『無し』と考えた方がいい。スクロールしているだけで情報収集ができるのが、ランディングページです」

そのうえで本題です。これからのLPは、広告ではなくステートメントになる。海外ではすでにその考え方が主流になりつつあります。ステートメントとは、いま会社が何を考え、何を世の中に投げかけたくて、何を求めているのか、自分たちは何をやろうとしているのか——それを示す材料のことです。

なぜ今までそうならなかったのか。理由はコストでした。LP1枚に数十万円かかる時代には、「決算報告のためにLPを作ろう」とは誰も思いません。回収の見込みがある商品説明にしか使えなかったから、商品LPばかりが乱立した。本来のLPは「情報を届けるためのもの」であり、AIで作れるようになったいま、それが本来の形に戻せる——というのが講師の見立てです。

会社の声と、個人の声を分ける

たとえば会社に何かトラブルが起きたとき。SNSで自分の言葉で説明できるのは良いことですが、それが会社としてのステートメントなのか、個人の気持ちなのかが区別しづらいという問題があります。

そこで、会社側のステートメントはLP、個人の話はSNSと、出し分けられる状態を作っておく。ここで設計しているのは広報=PR(パブリック・リレーションズ)、つまり顧客とどういう関係性を作るかそのものです。

この考え方は、そのまま商品開発にも効きます。前半に出ていた「いちご大福か、大根餅か」といった商品案も、いま自分が作れるものを並べて「食べたいものアンケート」をSNSで展開してしまえばいい。ほぼ無料で出せるのだから、意思決定を狭い会議室の中でやらずに、SNSの広い世界を巻き込みながら、正式な会社の意思決定として出していく。小売企業が月次決算の発表まで動画でやるようになったのも、発信のコストが下がったことの現れです。


最重要原則:ふざけない

発信の作り方そのものは、シンプルな公式で示されました。

素材(専門分野の中にある、あなたの普通の光景)× 演出(ナレーション・カメラ角度・視点の見せ方)=「行動ではなく、視点が面白い」コンテンツ

ここで言う素材とは、「いつもこれやってるな」という日常のことです。毎日のようにやっているカウンセリングや授業は、本人にとっては当たり前でも、外の人にはまったく分からない。自分では素材だと気づけないところにこそ、コンテンツになる要素がある——だからこそ、S3では行動履歴を貯めてAIに俯瞰させます。

そして、この日いちばん強調されたのが、「ふざけない」という最重要原則でした。

「面白いことをやろうとしてふざけるのは、人間やりがちなんですけど、SNSでふざけると、本当に面白いことを求めている人からは見放されて、ネットの中でおもちゃを探している人ばかりが集まってくる状態になる。SNSに対峙するときは、真剣にやる」

その例として挙がったのが、サッカー日本代表のヒーローインタビューの世代差でした。アラフォー世代の選手は「面白いことを言おうとする」。対して若い世代の選手は絶対にそれをやらず、今日の試合をどう受け止め、次にどうするか、同じ失敗を繰り返さないために何をするかを、すごく真剣に答える。

背景にあるのは、SNSによる環境の変化です。昔はテレビの中でヒーローの凄さが担保されていたから、ちょけていれば面白いで済んだ。いまは、すごいことをすればするほど叩きやすい存在になる。だから真剣に、丁寧に振る舞う。この感覚が薄い世代がSNSに出るとすぐふざけ、そのまま炎上する——だからこそ強調しておきたい、という話でした。

突飛な行動も、過激な演出もいりません。専門性のある視点を求めている人は、強い刺激ではなく新しい視点を求めている。そう捉えることが出発点です。


手を動かす③:素材を自動で貯め、企画書の4項目で1本を設計する

原則を確認したら、実装です。この日はS3のSTEP 1(行動履歴を自動で貯める)とSTEP 2(発信すべき業務を選び、1本を設計する)まで、各自の手元で滞りなく進みました。

STEP 1でやるのは、記録を意志に頼らない仕組みに変えること。AIエージェントが作業のたびに読み込むルールファイルCLAUDE.md など)に「作業が終わったらアクションログに1行追記する」と一度だけ書いておけば、AIとの共同作業そのものが行動履歴になります。エージェントの外で起きた現場仕事は、カレンダーの実績入力や夜の音声メモから拾う。3つの入口すべてが、意識しなくても actionlog/ に流れ込む状態——これが素材の泉になります。

STEP 2は、その泉から「会社として発信すべきもの」を選ぶ作業です。ネタを思いつきで探すのではなく、1週間分のログをAIに俯瞰させ、発信すべき業務・判断をピックアップさせます。自分でやらない理由は客観性——自分にとって当たり前すぎて見えていない日常こそが素材だからです。

選んだら、撮影・投稿の前日までに企画書を書きます。この日、実際に手を動かしたのが4項目です。

  • 欲求 — 演者(動画に出てくる人)が何をしたいのか。例:「今日の仕込み量を、勘ではなくAIで決めたい」
  • 手段 — どんな方法で達成するのか。日常で使うものだけ。新しい道具の説明動画にしない
  • 過程 — どこが面白く、どこが困難か。3ステップで書く
  • 結果 — どこへ着地するのか。できれば冒頭で示唆しておく

主語は常に演者に固定します。欲求・手段・過程・結果が決まっていれば、視聴者は「結局、何を見せられているのか」で迷子になりません。これは投稿の価値観を語るための企画書ではなく、動画の意味が崩れないようにするためのチェックリストです。

そのうえで、撮影前の品質チェックも一通り通しました。

撮影前の4原則チェック

  • A:5歳児でも楽しめるスタート — 最初の3秒で「誰が・何をしたいか」が分かる。専門用語・前置きなし
  • B:1本完結・初見でも楽しい — 前回視聴もフォローも不要で、最後まで意味が通る
  • C:ふざけない・日常を新視点で — 普段の仕事そのもの。演技も突飛なネタもなし
  • D:欲求は演者のもの — 視聴者向けのネタではなく、自分が達成したいことが動画の芯

迷ったときの判断基準は1つ、「明日の仕事でも同じことをしているか」。していないなら、それは日常ではなく演技です。企画書をAIに読ませて「4原則のどれかに違反していないかチェックして」と依頼すれば、自分では気づきにくい違反——とくにD(いつのまにか視聴者への解説になっている)——も拾えます。

今回の宿題:STEP 2まで、自分の手元に実装する

講義がSTEP 2まで進んだので、宿題もそこまでを各自のPCに実装すること。ルールファイルで行動履歴が自動で貯まる状態を作り、週1回のピックアップを定例に入れ、企画書1本を4項目で設計して4原則チェックまで通す——ここまでが揃うと、次回のSTEP 3(LPの量産と導線の体制化)に進めます。


S2 → S3 → S4 で、「声の主権」が揃う

この日の位置づけも、あらためて示されました。

  • S2(前回まで):外部の情報を自分の判断に取り込む。ひとりよがりではなく、世間の常識を踏まえた材料を揃える
  • S3(今回):それを、どう顧客に伝えるかを設計する
  • S4(次):届ける力を土台に、収益モデルを多面展開する

この3つが揃うと、アルゴリズムの影響を受けずに、届けたい相手に届ける体制が、しかもひとりで作れる。それが「声の主権を取り戻す」ということです。

ロールモデルを20個調べるより、最小の商品を1つ市場に出す。LPを広告ではなく会社のステートメントとして使う。素材は自動で貯め、1本ずつ4項目で設計する。そして、ふざけない。第7回は、発信を「うまくやる技術」から「自分の声を自分で届ける設計」へと組み替える回でした。

この回の内容を、教科書で体系的に

この回で扱った内容は、SOVREN Framework(無料・オープンソース)の教科書 S3「発信を自分でコントロールする」 に、行動履歴の自動記録からLPの量産・改善までの手順として体系的にまとまっています。

S3:発信を自分でコントロールする(教科書)