第5回の様子。SOVREN Frameworkの教科書を映したモニターの前で、講師が受講者に市場調査の進め方を説明している
第5回レクチャーの様子(2026年7月3日)。食・不動産・教育・アートの4名で運営するクラスで、教科書S2の手順に沿って市場調査を進める

「SWOTも3Cも、なぜ大企業でだけ機能してきたのか。答えは単純で、データ量です」
講師のこの整理から、第5回は始まりました。

分析フレームワークが悪いのではない。それを支える調査のコストを、小さな会社は払えなかった——それだけのことでした。そしてAIがリサーチャーとして働く今、この構図が崩れます。特定業界の事業者リスト、公的統計、ニュース。従来なら外注して何十万円もかかった調査を、個人のリソースで回せる。第5回のテーマは、その「回し方」の実務です。


前提:この調査は「新規参入探し」ではない

最初に釘が刺されたのは、調査の目的です。S2で行う市場調査は、新しい儲け話を探すためのものではありません。いま運営している事業の、戦い方と軸を最適化するためのもの。このクラスは食・不動産・教育・アートと領域の違う4名の経営者・事業者で運営しているクラスです。それぞれの参加者が、自分の現場を対象に調査を設計しました。


手を動かす①:セグメント別に、一つずつ回す

「市場調査してください」と一括でAIに投げると、浅い答えが返ってきます。そこで調査を分解します。

  • 市場規模
  • 競合
  • 地域トレンド
  • 補助金・制度

カテゴリーごとに個別に調査を依頼し、結果をそれぞれMarkdownファイルに保存する。そしてファイルには必ず「調査実施日」を書く。情報は古くなります。いつ調べたか分からないデータは、後で自分を騙す材料になるからです。

情報源のリアル:SNSは苦手

政府機関・公的データ・ニュース記事はAIの得意分野。一方、XやFacebookなどのSNSはスクレイピング規制が厳しく、AIでは拾いにくい。SNSのトレンドは、自分の目での観察を混ぜて人力で補完する——得意・不得意を知って使い分けます。


手を動かす②:調査の土台は、自分のオントロジー

同じ調査を依頼しても、返ってくる答えの質は人によって違います。差がつくのは、AIが参照できる自社情報の厚みです。会社情報、経営理念、事業計画——これらが整理されて入っているオントロジーの上で調査を回すと、分析は「あなたの会社の文脈」で返ってきます。

ここで、ある参加者の画面で問題が見つかりました。エージェントの作業範囲(ワークスペース)の設定が狭く、オントロジー全体を参照できていなかったのです。エージェントが迷子にならないよう、参照フォルダの設定を確認する——地味ですが、調査の質を根っこで決める設定でした。

参加者が各自のPCとモニターを使い、自分の事業の市場調査を進めている様子(第5回)
各自のオントロジーの上で、自分の事業の調査を回していく

個人の「制約条件」も書いておく

面白い指摘がありました。オントロジーに入れるべきは会社のデータだけではない。集中できる時間帯、1日に働ける時間の上限、財務の安全基準——講師自身は「1日3時間」という制約を明記しているそうです。制約を書いておくと、AIの提案が「理想論」ではなく「自分の生活で実行できる戦略」に変わります。

ファンタジーを書き込まない

逆に、オントロジーに現実と乖離した願望を書くと、AIはその「ファンタジー」を前提に戦略を組み立ててしまう。定期的に内容を見直し、客観的な事実で構成し続けること。オントロジーは書いて終わりではなく、手入れし続ける畑のようなものです。


手を動かす③:横断統合してから、AIに聞く

セグメント別の調査結果が溜まったら、個別に眺めて終わりにしない。「横断データ.md」を作り、関連資料を横断的にAIへ読み込ませる。この一手間で、AIは単なる情報検索を超えて、市場の隙間や具体的な参入機会を特定するところまで踏み込んできます。

実際、参加者の一人は基礎データの整理を終え、3C分析・PEST分析を適用するフェーズに入りました。講師からの指導は「分析は一回きりの作業ではない」。月次や四半期で定期的に回し、分析レポートとしてオントロジーに蓄積し続ける——ここまでやって、初めて生きた調査になります。


運用のリアル:トークンは有限資源

後半は、現実的な壁の話になりました。競合情報の入力はトークン(AIの利用量)を大きく消費する、という報告が参加者から上がったのです。講師の答えは実務的でした。

  • 利用制限のリセットタイミングを把握し、余裕がある時期に集中的にリサーチを回す
  • 枯渇したら追加課金の前に、別のモデルを検討する。初回無料キャンペーンなどを活用すれば、コストを抑えて分析を継続できる
  • 情報の信頼性・セキュリティに応じて、モデルやアカウントを使い分ける

次回:中期経営計画をつくる

ここまでで、材料は揃いました。次回は、蓄積したリサーチと分析を統合し、各自が自分の会社の中期経営計画を作ります。

講師が最後に強調したのは、手順を飛ばさないことでした。市場調査と自社の資産分析——ステップの前半を省略して進めると、計画全体の構造が崩れる。行き詰まったら、一つ前のステップに戻る。「この作業を丁寧にやることは、外部のコンサルティングに頼めば数百万円規模に相当する」——その言葉で、第5回は締めくくられました。

データで戦略を決める権利は、もう大企業の専有物ではない。調査を分解し、日付を書き、横断統合し、定期的に回す——AIを専属リサーチャーにする手順が、今回で各自の手に渡りました。

この回の内容を、教科書で体系的に

この回の内容は、SOVREN Framework(無料・オープンソース)の教科書 S2「情報をまとめて使えるようにする」 に、市場調査から中期経営計画づくりまでの手順として体系的にまとまっています。

S2:情報をまとめて使えるようにする(教科書)