「ブラウザのタブ、カメラロール、付箋。情報はそこに散らばっているのに、判断には使えていない」
講師のこの一言から、第4回は始まりました。
このシリーズは、第6回で3年間の中期経営計画を各自が自分で作るところまで進みます。本来コンサルタントが何十万円もかけて作る計画を、オントロジーを武器にすれば無料・無制限で作れる——その状態を目指すための、土台づくりの回でした。
第4回のテーマは「外部情報の統合」。Web、書籍、競合データといった外の情報を、自分のオントロジーに取り込んで使える形にする。言葉にすると一行ですが、実際にやると、参加者それぞれが別々の場所で詰まります。その詰まりこそ、この回のいちばんの収穫でした。以下、当日の流れに沿って記録します。
導入:まず「職業の枠」を外す
作業に入る前に、講師が一つ揺さぶりをかけました。「飲食店経営者だから」「士業だから」という職業的な役割の枠(認知フレーム)にとらわれていると、戦う市場を直感と好みで選んでしまう、と。
一度その枠を外し、自分の力を「体験設計力」のように抽象度を上げて捉え直す。そのうえで、資金の流れや外部データに基づいて主戦場を選ぶ。直感ではなくデータで決めるための、準備運動です。ここで部屋の空気が少し変わりました。「自分は◯◯屋」という前提を外す、という出発点に置き直されたわけです。
手を動かす①:リサーチフォルダーを作る
最初の作業は、情報を貯める箱の用意でした。各事業の作業環境に「リサーチ」フォルダーを作り、中を2つに分けます。
リサーチ/ ├── source(ソース) — 集めた生の情報源 └── analysis(分析) — AIに分析させた結果
集めた情報と分析結果をはっきり分けておく。後で分析結果だけを別の場面で使い回せるようにするためです。
ここで、ある参加者が画面を共有しながら手を止めました。リサーチフォルダーを、オントロジーそのものの中に作ろうとして、構造がこんがらがってしまったのです。講師の助言は明快でした。「オントロジーの中じゃなくて、事業名のフォルダーの下に作る」。事業ごと(たとえば不動産の事業、食の事業)にリサーチフォルダーを分ければ、情報が混ざりません。複数の事業をまたいでオントロジーを動かしたいなら、深い階層ではなくマイドライブ全体をルートとして参照させる。画面の中のフォルダーが整理されていくのを、全員で見ながら確認しました。
手を動かす②:「自分」と「会社」を分けて入れる
次は、自分自身の情報の入力です。AIが個人の主体性を正しく扱えるように、「自分という個人」と「所属する会社という組織」を別々のファイルに分けます。それぞれ独立したMarkdownにして、適切な階層に置く。
ファイル名についても、細かいけれど効く指示がありました。ニックネームや略称をやめ、本名のフルネーム(「氏名フルネーム.md」)にする。命名がブレると、それだけでAIの認識精度が落ちるからです。
「世間から見た自分」を引き出す
面白かったのが、エージェントに自分の名前を検索させて、世間からどんな活動者として見られているかを構造化データに書き出す作業です。やってみると、同姓同名の他人のデータが混ざってくる。「これは自分じゃない」を一つずつ削っていく。自分を外側から眺め直す、妙な手触りのある時間でした。
外に出ていない「内側」も入れる
外部データだけでは足りない、と講師は念を押しました。ビジョン、キャリア、専門知識、リスク許容度、使えるリソース——こうした内側の考えが入って初めて、AIの出力が本人の希望と噛み合う。ここが薄いと、分析結果がどんどん自分の意図からズレていきます。
「でも、考えを文章にまとめるのが面倒で」という声に対して、講師は記録のハードルそのものを下げる方法を示しました。Windowsの音声入力で、思いついたことをそのまま吹き込む。整理されていなくてもAIは扱えるので、まずは「インボックス」に放り込んでいけばいい、と。
つまずきメモ:完璧主義を捨てる
「構造がうまく決まらない」という相談に対し、講師の答えは「決まらなくて当たり前」。雑多な話は「コンセプト」フォルダーに集約し、横断的な要素は上の階層へ。そして——講師自身も、形が決まるまで20〜30回は作り直した。一度で完成させようとしないこと。これが場の空気を一気に軽くしました。
手を動かす③:会社情報を「丁寧に」入れる
会社に関する客観情報——理念、ビジョン、事業内容、財務情報、組織構成、経営課題——を蓄積していきます。ここで講師が繰り返したのは「丁寧に」の一語でした。雑な入力は、そのまま回答精度の低下になって返ってくる。急がず、客観的な事実として整えながら入れる。地味ですが、後の中期経営計画づくりで効いてくる工程です。
手を動かす④:書籍をデジタル化し、構造化ナレッジに変える
ここからが第4回の山場です。ネット上の断片情報より、体系立った書籍の知識のほうがオントロジーの武器になる。そこで、自分のビジネスに直結する本をスキャンして取り込みます。
- Googleドライブのアプリで書籍をPDF化する
- 各案件の「原点」フォルダーに保存する
- 複数PDFにまたがる場合は、ファイル名に「1」「2」と順序の番号を付ける(AIが正しい順で読むため)
- AIに「構造化ナレッジにして」と指示し、点と線でつながった検索しやすい形式に変換させる
スキャンしただけのPDFは、AIにとっては単なるテキストメモで扱いづらい。「構造化ナレッジ化」のひと手間で初めて使える知識になります。
ただし、取り込む本には条件がありました。「自分が中身を理解している本だけ」。読んでいない本を大量に入れると、AIの出力がかえって不明瞭になる。「とりあえず全部入れたい」という気持ちに、はっきりブレーキがかかった瞬間でした。
理論は「混ぜない」
複数の著者の理論を無作為に統合すると、論理体系が崩れて精度が落ちる。異なる理論は個別の構造のまま残し、必要なときにAIへ比較や批判的評価をさせる。会議の議事録を入れておけば、AIが特定の人物の思考を模した上でフィードバックを返す体制も作れる、という発展形も共有されました。
そして「新しい提案」が生まれる
構造化した専門知識——たとえばある料理理論の体系——を取り込むと、AIが複数の情報を融合した新提案を出せるようになります。特定の食材データと既存の専門理論を掛け合わせて独自レシピを作る。ネットに転がっている一般情報とは、はっきり差別化されたアウトプットです。取り込んだ知識が「使われて」初めて武器になる、という手応えを全員が共有しました。
手を動かす⑤:競合をベンチマークとして取り込む
競合他社のサイトや公開資料を「ベンチマーク」フォルダーに集め、構造化データとして処理すれば市場分析に使えます。URLをAIに渡してリサーチさせることもできる。ただし注意も。不要な情報を増やすとオントロジーが混乱する。「何を知りたいのか」を先に決め、絞ってから取り込む。ここでも「全部入れたくなる衝動」を抑えるのがコツでした。
参加者の質問から:運用のリアル
後半は、参加者の具体的な詰まりに答えていく時間でした。ここがいちばん「現場」でした。
「図形は認識できますか?」
ある参加者が、AIエージェントは丸や四角といった図形を認識できるのか、と尋ねました。答えは、現状のエージェントは視覚的な図形認識が苦手。スクリーンショットのような視覚情報を直接扱わせるより、文字ベースで指示するのが確実です。間取り図から3Dモデルを作るような2D→3D変換も、構造化データの不一致で今は難しい。
では建築のような領域でどう使うか。発想を変えます。元の写真を活かしつつ「この壁を消す」「窓の位置を変える」と言語で指示する。建築基準法のような法規も、全文を取り込まずWeb上の情報を参照させる。素人視点で「現場で報告すべきことのチェックリスト」をAIに作らせて現場で使う、という実務的な落とし所も示されました。
「共有フォルダのファイル、どう読ませるんですか?」
別の参加者からは、Googleドライブや共有フォルダの中身をエージェントに認識させる方法について質問が出ました。答えはシンプルで、そのフォルダ・ファイルのパス(Path)を直接入力する。場所を示すパス文字列をコピーして指示に貼るだけで、エージェントが該当階層にアクセスできるようになる。あわせて、パス処理を楽にするため、作業はデスクトップではなくCドライブのユーザーディレクトリ配下で行うのが良い、という実地のコツも共有されました。
「クレジット、上限にぶつかりました」
そして、参加者の一人がクレジットの上限に達した、と報告しました。講師の答えは「それは正常です」。初期のオントロジー構築やガイドライン作成では、大量のデータを読むのでクレジット消費が激しくなる。構築が一段落すれば落ち着く。当面の対策はこうです。
- 設定を「低」にして読み込み量を抑える
- 制限はおよそ4時間で解除されるので、時間をおいて再開する
「壊れたわけじゃない、土台を作っている証拠」と分かって、報告した本人も周りも、少しほっとした空気になりました。
「スキャンの画像、入れていいですか?」
資料をスキャンしていた参加者からは、画像を含めるべきか、横向きのページはどうするか、という相談が出ました。助言は実践的です。文字情報を優先し、不要な画像は極力入れない。ページが横向きのときは、事前に回転させて正しい向きに直してから取り込む——向きがおかしいまま読ませると、無駄なクレジットを食うからです。読み込みでエラーが出たら複数の手法を試す、OCRを使うならクレジット消費への影響をAIに確認しておく。細部ですが、ここで詰まる人は多い、という共有でした。
今日のチェックリスト
第4回で各自が進めるべき作業を、手順として残します。
| ステップ | やること |
|---|---|
| ① 箱を作る | 事業名フォルダー配下にリサーチフォルダー(source / analysis)を作成 |
| ② 自分を入れる | 名前を検索→外部から見える情報を構造化データとしてMD化/本名フルネームでファイル命名 |
| ③ 内面を入れる | ビジョン・経験・スキル・人生設計・リスク許容度を追記。日々の考えは音声でインボックスへ |
| ④ 会社を入れる | 理念・事業・財務情報を整理してオントロジーへ体系入力 |
| ⑤ 知識を入れる | 理解している書籍をPDF化→原点フォルダーへ→「構造化ナレッジ化」を指示 |
| ⑥ 競合を入れる | ベンチマークフォルダーに競合データを目的を絞って構造化 |
| ⑦ 連携させる | 共有フォルダーのパスを取得し、エージェントに読み込ませる |
完璧を目指さない。まず箱を作り、貯め始める。構造は20回でも30回でも作り直せばいい——詰まりながら手を動かした90分が、そう教えてくれた回でした。
この回の内容を、教科書で体系的に
この回から入る内容は、SOVREN Framework(無料・オープンソース)の教科書 S2「情報をまとめて使えるようにする」 に、手順として体系的にまとまっています。外部情報の構造化ナレッジ化から、市場選定・中期経営計画づくりまでを扱います。